主権在民!共同アピールの会

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11・18  ボストンで“建国の父”の英霊を呼び戻す 「いつも心に憲法を」隊、アメリカを行くA 

ノンフィクション作家 吉田司 (週刊現代 連載の第二回)

 えっ〜、共同アピールの会<ドン・キホーテな平和の夢>旅団・アメリカ横断報告記その2弾でございます。前号で、戦後日米安保体制がスタートしたサンフランシスコの「戦争記念オペラハウス」前で、1928年パリ不戦条約(→日本国憲法9条の戦争放棄)を読み上げる歴史復元主義アクションを演じましたが、今回はその続き=現代アメリカ社会の一断面をレポートするところから始めます。

 というのもオペラハウス周辺は市庁舎の記念センターなど荘厳な建物が多く、市民が散策する明るい公園だが、その裏側はダウンタウン(下町)。黒人とプア・ホワイトのホームレス通りなのです。夕方になると、この街には市内にあるデビットソン山から夜霧が下りてくる。折からの寒波で、通りに黒いフードを被った失業者、行き場のない若い男女、物乞い、老婆、身障者が続々集まってくる。ダンボール片に「NEED CASH!」(金をくれ)と書いた人々の群れだ。

 アメリカ経済は「住宅バブル」に沸いていると日本のメディアはつい最近まで報道してたけど、そんな面影はこれっぽっちもない。シャッターの下りた劇場の前で、病人らしきホームレスが横たわり、もうひとりの白人の薄汚れた大男が、しきりに身体をさすって温めていた。病院に運ぶ金がないのだ。わたしは人に金を恵むことはしない。こっちが恵んでもらいたいくらい貧乏だから(笑)。

 しかし、その時は耐えられなかった。わたしは大男の肩をツンツンとつつき、 20 ドル札を1枚だまってさし出した。大男の目は仰天したように大きく見開かれた。わたしは寝袋の中をのぞきこんだ。黒人の女性だった。「ユー、OK?」「サンキュー」。かぼそい声がすがりついてきた。

 クソ、なんて街だ、この街は病人でさえ放置する……と歩き出すと、眼の前に「NEED CASH!」がドンとつきつけられた。ヒゲ面の乞食姿が「俺にも……」と立っていた。ホテルに帰ると、野中章弘(アジアプレス代表)から怒られた。

「 20 ドルもやる馬鹿はいませんよ(笑)。ふつう電車賃の残りの 50 セントくらいです」

 そう、あの日米安保オペラハウスの裏側は「ああ哀愁の街に霧が降る〜」って歌の文句のような街だったのであります。

 さてあくる9月8日、ぼくらはカリフォルニア大バークレー校のマイケル・ネグラ―教授と対峙していた。小柄で白い不精ヒゲをはやし、ゼミの可愛い女子大生を2〜3お伴にしたがえ、ニコニコ笑ってござる。

「なんだい、この変な爺さん!」と聞くと、「しっ、静かに。マイケルはこの西海岸で最も有名な『非暴力』平和主義の学者です」と野中にまた怒られた。

 バークレーは「 60 年代に全米に急速に広まった学生運動の発祥地」(ホテルの観光ガイドマップより)として知られている。いわゆるキング牧師らの黒人「非暴力」・公民権運動とベトナム反戦のアメリカ・新左翼運動が、1964年哲学専攻の学生マリオ・サビオがはじめた「バークレー・フリースピーチ運動」の中で大きく結合したのだという。『1968世界が揺れた年』(マーク・カーランスキー著)には、こうある。

「サビオは先頭に立って、大学本部のスプラウル・ホールを占拠した。アメリカ史上、学生逮捕者数が最高を記録する結果に移った」(上巻 171 ページ〜 172 ページ)

 とすれば、いまぼくらこのバークレー「変な爺さん」の非暴力主義とのフリースピーチを通して、アメリカの最も良質な<戦う平和主義>の伝統と対峙していると言ってよかった。吉岡忍(作家)が先陣を切った。

「9・ 11 同時テロ以降のアメリカは一体どうなってしまったのか?」

「それを言われると、まことにお恥ずかしい。しかし、われわれは9・ 11 で2つのことを学んだ。ひとつは、テロリストを交渉するに価する人間として、彼らの言うことに真剣に耳を傾けることの必要性だ。ふたつ目は、どのような武器(例えばミサイルであっても)の脅しにあっても、恐怖のパニックにとらわれないことだ。われわれが恐怖を持たなければ、武器はその力を発揮できないからだ」

 東一邦(さいたまNPO)が続いた。

「いま日本はまさにその北朝鮮ミサイルなどの脅威に直面し、多くの人が自衛のためのバイオレンスに救いを求めようとする傾向が強まっています。あなたの日本認識は?」

「かつてインドのガンジーは強大なイギリス帝国と戦った時、<弱い者による非暴力>=不服従闘争を続けました。しかし、日本はいま弱い国ではない。強くて大きな国です。しかも平和憲法9条というパワーを持っている。 21 世紀の<非暴力主義>は日本のような大きな国においてこそ実現されなければならないのです。非暴力で国をディフェンスするためには、市民の大きな勇気が不可欠です。武器を恐れない勇気とトレーニングも必要です。それには白人のリンチ、逮捕や投獄、銃の暴力にも屈しなかった黒人・公民権運動の経験・物語がお役に立つでしょう」

 そしてこのマイケル爺さん、最後にこう言い放ってぼくらをアジリ倒しやがった。

「日本人は戦後 60 年平和憲法という<非暴力>伝統の下に生きてきました。しかし、いまはそれをもっとアグレッシブな非暴力行動主義に変えて、安倍内閣に対抗していくべきです」

 はっきりと<安倍内閣>の名前を挙げたのには驚いたぜ。おいおい、ずいぶん日本の現在進行形に詳しいじゃないかとね。しかし、ホントのところ、いまアメリカ人の側の、日本の<戦争と平和>についての理解度は、どのくらいのものなのか――サンフランシスコからボストンに飛び、9月9日ハーバード大学の歴史学アンドリュー・ゴードン教授や「ライシャワー研究所」のヘレン・ハーデーカー教授、その日本人留学生たちとの討論の中で、それが浮き彫りにされた。

 ヘンリーはネット上にあがる日本の若者の平和意識の変化に注目し、情報収集を続けていると述べ、特に「小林よしのり」の名を挙げた。たちまち“聞き捨てならぬ”と立ち上がったが、ボストンからの合流組・石坂啓(漫画家)だ。

「小林は“タカ派”です。日本の漫画表現はいま、わたしたちのように平和や憲法や戦争批判をするものは“描けない”状況に追いつめられています」

 森達也(映像作家)も気合いを入れて、斬り込んだ。

「9・ 11 同時テロ以降、ブッシュの先制攻撃論などで、<自衛のために他者を攻撃する>という流れが世界中で常識化してしまった。しかしその最初の突破口を作ったのは、オウム真理教の地下鉄サリン事件です」

 でもね、受けて立ったアンドリュー教授の答えは、かなり平凡なもの。学者的中立を守る……という安全弁でかわされた。

「いま日本に改憲気運が起こっているのは、共産・社民や労働組合の力が弱体化したためでしょう」

「靖国参拝問題については、内政干渉になりますから……」

 ガックリ疲れて……大学のキャンパスの芝生の上で 14 人が車座になって、ドン・キホーテ旅団の総括集会を開いたのでござりまするよ。

「さすがアメリカ切っての名門ハーバード、みごとな官僚答弁。あの雰囲気の中で育った日本人留学生が帰国して、財務省や外務省の官僚になるという出世コースの裏側がよく見えたね」と古木杜恵(フリーライター)が笑う。

「この程度の平和論なら、わざわざアメリカに来ることもなかった」と三上治(評論家)が嘆く。

 旅団長の元木昌彦(元週刊現代編集長)も今日ばかりはうまく話のまとめようがない。こんな挨拶をした。

「えー、日本からの連絡では、紀子さまの男子誕生でお祝いの提灯行列だそうです。新しい日本がはじまります。わたしたちも頑張りましょう」

 思わずアメリカで天皇家の弥栄(いやさか)を祈ってしまった、トホホホ……。

 でもさ、元気を出そう! ボストンには<ドン・キホーテの夢>の2番目の旗を立てる仕事がまだ残っていた。というのも、この街は1775〜6年に建国の父・ジョージ・ワシントンが連隊を率いて、イギリス植民地からの独立戦争を最初におっ始めた歴史的な場所だからだ。もしアメリカ精神の真髄が、圧制者(イギリス)の支配と戦うための「市民的武装」抵抗権にあったとするなら、このボストンはすべての<アメリカ的なるもの>の源流である。<自由>と<バイオレンス>が最初に握手した街だ。

 ケンブリッジの中心にある緑の公園の中に、そのキャンプ地跡「ジョージ・ワシントンのレリーフと3門の黒い大砲」が陳列されていた。わたしは、その「建国の父」の前で、現代アメリカ・ブッシュUSA批判の大演説をこうぶったのさ。

「聞きたまえ、ワシントンの英霊よ。圧制者の支配に抵抗するアメリカ建国精神の尊い輝きはいまどこにある。現代アメリカは、自らが世界の圧制者として、それに抵抗する他国市民を殺して回っている。昔日の英国植民地主義と選ぶところなし。恥じなきや! 汝、建国の父ワシントン。願わくば再びここに甦えり、あの<愚者の王>ブッシュを撃て!」

 わたしは、明治 33 〜 34 年頃に、日本の青少年の間に流行したアメリカ独立革命の勇気をたたえる歌『ワシントン』(作詞不明・北村秀晴作曲)を大声で歌い、招魂の儀式にかえた。

   「天はゆるさじ 良民の

    自由をなみする 虐政を

    13 州の血は ほとばしり

    ここに立ちたる ワシントン」

 さあ建国の父ワシントンよ、目覚めよ。目覚めて、ぼくらドン・キホーテ旅団と共にニューヨークに向かおう。9・ 11 同時多発テロから5年目の「グラウンド・ゼロ」(爆心地)の現場に立つのだ。そして見つめよ、いまお前のアメリカが世界に向かって何をなし、その結果として何をなし返されているかを。次号最終回は、そのグラウンド・ゼロからクライマックスをお送りします。