主権在民!共同アピールの会

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9・14 ニューヨークの現場を行く 「9.11」から5年〜愛国主義一色に変化 「9条の精神広げよ」

ノンフィクション作家 吉田司 (東京新聞06年9月14日付け夕刊用原文。実際に掲載された文章は字数を削ってあります)

 小泉後政権は「安倍晋三」で決まり!らしい。「麻垣康三」なんて騒いでいたころがなつかしいよな ( 笑 ) 。だって安倍氏は「まず憲法改正国民投票法案を成立させる」と宣言したし、ベストセラー『美しい国へ』の中で「経済力、最強の軍事力を考えれば日米同盟はベストである」と書いている。日米一体化(いわゆる米国属国路線)はいっそう深化し、集団的自衛権の確立 ( =米軍との ) 共同行動をめざす「改憲内閣」が成立するだろう━でもね、この 2 年間、投票法案反対の前面に立ってきたわたしたち「主権在民!共同アピールの会」も、作家の吉岡忍やアジアプレス代表の野中章弘、映像作家の森達也らの元気者が集結した<独立行動集団>だ。そう簡単に負けちゃいないよ。その証拠に、アピールの会はいま日本国内にいない。サンフランシスコ→ボストン→ 9 ・ 11 ニューヨークのグランド・ゼロに向かって横断中である。<なぜ米国か?>これは取り急ぎの横断報告記である。

というのも、平和憲法九条は米国からの「押しつけ憲法」ではなく、実は第一次大戦の惨禍から生まれた<戦力放棄>の思想= 1928 年パリ不戦条約の復元だったとの学説が最近になって力を得つつある。そこで、アピールの会はこの 9 月 7 日、 1951 年サンフランシスコ講和条約 ( =日米安保体制のスタート ) が調印された記念会場オペラハウスの前で、その不戦条約を読み上げる「ヒストリカル・エナクトメント ( 歴史復元主義 ) アクション」を決行した。つまりそれは、憲法九条の源流である“世界不戦精神”を呼び覚ます儀式であり、やって来る安倍「美しい国」 ( 島国日本ナショナリズム ) 内閣にこっちの方から先制攻撃のパンチを仕掛けたってお話である。さてうまくいくかどうかはともかく、われわれは西海岸で最も有名な「非暴力」平和主義者、カリフォルニア大のマイケル・ナグラー教授やボストンのハーバード大学「ライシャワー日本研究所」の教授陣らと<反テロ時代の平和主義>の可能性について議論を重ね、ついに最終目的地「 9 ・ 11 同時テロから 5 年目」のニューヨークへと乗り込んだのであ〜る。


グランド・ゼロ

メモリアル・スポットとなったグランド・ゼロ(爆心地)は四方をフェンスに囲まれ、土木建築工事の巨大な資材置場のように見えた。ブルドーザーやクレーン車が並び、土地が掘りかえされて山となり、その間に 9 ・ 11 の犠牲者の家族や消防士、警官らの喪服・哀悼の大集会が開かれていた。教会の鐘が鳴り、「星条旗よ、永遠なれ」の国歌が流れ、街中の新聞、テレビメディアには「 vow never to forget 」 ( あの日を決して忘れないことを誓う ) というブッシュ大統領の言葉があふれかえっていた。五年前のあの惨劇から一週間後に取材でここを訪れていた吉岡忍は、フェンスの前でこう回想した。

「黄色い煙がまだあがっていたんだよ。すごい臭いがしてね。だって 2800 人も死んだんだぜ。瓦礫をトラックで何十台も運んでたが、それにも肉片がこびりついていた・・・。あれから 5 年経って、今は何もない。カラッポな単なる工事現場のように見える。しかしそうじゃない。このゼロ空間には、あれからアフガン空爆やイラク戦争の何万人もの他国民の血が<代償として>流れこんでいるんだ。グランド・ゼロの悲劇はもうアメリカ人だけのものじゃなくなっている。そして今も増殖を続けている。そう思うんだな。」

 実際、愛国主義一色だったアメリカにも変化が起きはじめていた。アフガン「報復」戦争に反対した遺族団体「ピースフル・トゥモローズ」は今年はじめてスペインの列車爆破テロやロシアの小学校テロの関係者、インドネシアのホテル爆破の被害者らを招き、ニューヨーク世界大会を開いた。その中心で活動するデビッド・ポトーリーさんに話を聞いた。彼はあの日、ノースタワーで“愛する兄”を失った。

「一番つらい時は 2003 年の大統領選挙の時だった。彼らは 9 ・ 11 の遺体が並ぶ映像を繰り返し流して、反テロ戦争の宣伝に利用した。“言葉を失った死者”を選挙に使うなと主張したら、たちまち四方八方から愛国主義右翼の攻撃に取り囲まれた」

「しかし、この 5 年で、なにが一番変わったかというと、それは自分自身だ。戦争に反対している世界中の人々、例えば日本のヒロシマの被爆者に会って、私は自信と勇気を回復していった。『戦争に反対することは、罪でも異端でもない。あたりまえのことなんだ』とね。そしてこう思った。自分でさえ変わったんだ。世界の声の前ではアメリカも変わるはずだと」


9・11事件の遺族

 つまり、今回私たちアピールの会が狭い島国ナショナリズムの国境線を越えてワールドワイドな“世界精神”を模索する旅に出たように、デビッドら 9 ・ 11 遺族もまたアメリカ一国「愛国」主義を世界精神の方角から撃とうとしているのだった。だから、彼は最後にこう言い添えたぜ。「日本人が、九条の不戦精神を世界中に広げていくことを、私個人としては強く願っている」。カリフォルニアでマイケル・ナグラーも似たようなことを言ってたよ。

 「日本人は戦後 60 年、戦争をしなかったという非暴力の伝統を持っている。今こそそれをアグレッシブな非暴力主義に変えて、これからの安倍晋三の『戦争のできる国』主義と対決すべきなのです」

 そう、増殖するグランド・ゼロの世界的悲劇を阻止する力は今日本人側にあるのだとアメリカ人たちに励まされながら、わたしたちの米国大陸横断の旅はまだまだ少し続く。